診療室で飼い主さんの話を聴いているとき、いったい何が起こっていると思いますか? 多くの場合私たち獣医師は、飼い主との医療面接中に、思考、感情、五感やイメージなど、いろいろなことが起こっています。 更に獣医師は、相手の話を聴きながら、自分に自然に起きてくる感情やイメージなどを横において、相手の望みを叶えるコミュニケーションをとっていく必要があります。それはまさに、スーパーコンピューターのよう。 同様のことが、飼い主さんサイドでも起こっています。望みを獣医師に伝え、伝えやすいか伝えにくいか、この人に話しても良いか、を一瞬一瞬のコミュニケーションで評価しつつ、自分の心配事から発生するであろう最善から最悪までのシュミレーションやそれに伴う感情が湧いているのです。 実は、ちょっとしたことの連続でコミュニケーションは成り立っています。いくら自分が優秀で、人柄が良い獣医師であるという評価を周囲から得ているからといって、例えば余裕がないときに、いつも同じ最善の状態でコミュニケーションをすることが出来る人というのは、正直少ない、いやいないと思います。 自分のコミュニケーション能力が長けていて、今まで飼い主とのコミュニケーションで全く問題のなかった方はほとんどいないでしょう。もしあなたがそうだとしたら、それは全く運が良かっただけかもしれません。怖い思いをされた方がほとんどだと思います。 この時、獣医師が自分のほうに湧いてきた感情が表情や態度に無意識に現れたら、その瞬間飼い主は自分の言いたいことを言いづらくなるでしょう。このフラストレーションが溜まって、人間関係がギスギスしていきます。人間関係を保っているのは相手の理性と、自分の動物を大切にしてほしいという願いからですが、しばらくして病院をだまって変えるケースがこれに当たるでしょう。 これは「サイレントクレーマー」です。 飼い主は、残念ながら、フィードバックをめったにくれません。 黙って病院を去ることがほとんどです。 だから、私たちはいつも恐怖と戦っています。 無言で去られるのを怖いと思い、でもそれを引き起こした自分を見たくないので、見ないふりをしたりします。 私はこのことこそ、とんでもないエネルギーの浪費だと考えています。 人間の医師と患者のコミュニケーションの講演で医師の日野原先生は、患者へ向かって「良い患者になるために、病院を不本意に去ったら、その後どうなったのかを一筆書いて送ってあげなさい。そうすれば、患者であるあなたも医師もその後どうなったのか、というもやもやした気持ちがすっきりするから。」と仰っていました。人間の医療でもなかなかそれをする人はまだそんなにいないと思います。もちろん動物病院にもこのことはそのまま当てはまります。これが出来る関係になったら素敵ですね。 飼い主の心配事を解消するには、飼い主の訴えたいことをしっかり聴けているか、をあえて顧みる必要がありそうです。そのためには、診察室のコミュニケーションの練習をするのが即役に立つでしょう。 皆様の病院内でも、コミュニケーションセミナーを開いてみたり、スタッフ同士でシュミレーションをしてみてはいかがでしょうか?失敗して良い安心な場で。
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幸せの形は、人によって違いますよね。
では、動物にとって何が幸せなのでしょうか?これは、動物種に、そして個々によって全く同じものは何ひとつありません。 飼い主の幸せ、動物の幸せ、私たちの幸せ。それぞれが違う。違うのが当たり前ですよね。 価値観が違う同士が集まれば、思い通りにいかないこともあるだろうし、そしてまたそれが学びにもなります。 飼い主だけでなく、動物そのものの声を聞いて動物の幸せを考えるのも獣医師の仕事です。というか、むしろ、飼い主と動物の仲介役、それが日常である筈です。 ここで必要なWin-Winのセンスは、Win-winでなく、Win-Win-Winを考えることになります。 獣医師はコーチングといっても、少し高度ですね。 コーチングは、コーチングをする側にとってもされる側にとっても、より良い前進を起こすコミュニケーションです。 ですから、このセンスを身に着けると、コミュニケーションは円滑になります。だって、コーチと話しているだけで、コーチがそこにいるだけで、どんどん望んでいる結果が起こってくるから、クライアントにとっていてくれて嬉しい存在になるからです。 もし、獣医師がコーチングのセンスを持ったら、お互いにすいすいと望む結果(共通のものは、伴侶動物の健康など)が起こりやすくなるので、本当に良いでしょうね。 この、お互いにより良いことが起こるということを意図して話や行動をするのは Win-Winの法則ですよね。 獣医師と飼い主さんだけでなく、スタッフ同士、そして家族や地域社会とも、Win-Winを意識するだけで、私たちの人生の流れは急速に変化しますよ。ぜひ、意識してみてもらえると嬉しいです。 |
Author福井利恵 Archives
3月 2022
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